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2025.09.11

【共催イベント】学際研究会「ヒューマニティーズ+(プラス)」のご案内

人文学と他の分野のディシプリンをつなげることを目的とする研究会「ヒューマニティーズ+(プラス)」の第6回をDHSS共催で開催いたします。

今回はイギリス経営史を専門とし、分野横断的な研究に造詣の深い山本浩司氏(東京大学)をお招きし、「discipline-based skills」という概念を軸に、人文社会科学が現代社会で果たすべき役割と、その知見を社会に応用する方法について話題提供いただきます。
また、ZEN大学/DHSS客員研究員の武富有香氏からは、人文学研究者が研究の実践を通じて身につける技術をどのように社会と接続しうるかについて、具体的な視点からの発表をいただきます。

専門分野を超えた議論を通じて、人文社会科学の社会的使命とその可能性を探る場となる予定です。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

開催概要
イベント名:ヒューマニティーズ+(プラス)第6回研究会
URL:https://www.humanitiesplus.jp/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A%E6%97%A5%E7%A8%8B#h.sdc4v8wsao7r
日時:2025年9月12日(金)13:00-16:00
場所:国立情報学研究所 神田サテライトラボ & Zoomミーティング
対象:分野を問わず、本テーマに関心のある学生・教職員・一般の皆様
参加費:無料
申込方法:事前申込不要(Zoom参加希望者はヒューマニティーズ+公式サイトをご確認ください)
主催:ヒューマニティーズ+運営事務局
共催:名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センター(DHSS)

プログラム
13:00-13:05  開会の挨拶・趣旨説明
13:05-14:20  発表① 武富有香氏(ZEN大学/DHSS客員研究員)
「『人文学研究者のスキルセット』を考える」
14:20-15:35  発表② 山本浩司氏(東京大学)
「Discipline-based skillsと人文社会科学の社会的使命」
15:35-16:00  全体討論・質疑応答
16:00     閉会の挨拶

発表要旨:
武富有香(ZEN大学/DHSS客員研究員)「人文学研究者のスキルセット」を考える
工学系の研究者にとって,大学院における専門性の高い研究は将来の職業選択の選択肢を広げることが多く,自らの専門性を用いた仕事についてのヴィジョンをアカデミアの内外で持ちやすい.一方,人文学の研究者にとっては,その専門性の高さはむしろ選択肢を狭めるとみなされており,「人文学は役に立たない」という言葉を一度も自分ごととして反芻せずに研究を続けられた研究者は稀であろう.
本発表では,「人文学の研究者は専門家の見地をいかに社会に還元し,目指すべき社会の設計に関わっていくべきか」という専門家としての大局的な責務については(非常に重要な問題であるが)直接的には論じない.その代わりに,人文学の研究者が研究分野のディシプリンの中で身につけている実践的な技術をまず具体的に列挙した上で,研究対象(特定の作家や概念)に深く特化した技術を,より汎用性高く用いることのできる粒度で捉え直したときに,これらの技術をどのように記述し直せるかを問い,社会とどのように接続しうるかを考える.さらに,技術の潜在的な適用範囲や限界を正直に列挙することを試み,「なにができるか」だけでなく「なにができないか・不得意か・関心の外側か」について記述することで,より正確に技術や分野の特徴を知る足掛かりにしたい.この試みは「われわれ人文学の研究者は,研究の実践においてなにをどのように行なっているのか」というメタ研究の性質を持つ.
発表者にとって本テーマは,2019年にはじめた国立情報学研究所における共同研究で「人文学の研究者としてデータを見たときに,具体的にどのような作業や分析ができるのか,どのように手を動かし,データに注釈を与え,既存の研究より質の高いものにできるのか」という,いわば「人文学研究者のスキルセット」を極めて実務的なレベルで説明する必要に迫られた経験に端を発している.その後,神田ラボのメンバーの多くが議論に関わり,数年にわたってほぼ網羅的な分野の研究者たちと話をする中でさまざまな視点がみえてきた.今回は文学と哲学研究の技術について話題提供を行う予定である.

山本浩司氏(東京大学)「Discipline-based skillsと人文社会科学の社会的使命」
若年人口の減少がほぼ不可逆的に進み、欧米社会を揺るがしてきたポピュリズムの波も同時に押し寄せている日本社会において、人文社会科学分野の研究者はどのような社会的役割を果たせば良いのだろうか。本発表では、2016年にイギリスから帰国した歴史研究者による一試論と試行錯誤のようすを提示する。特に「歴史家ワークショップ」と東京大学「人文社会科学国際化推進センター」での取り組み、そして学内外の交流から得た知見を統合することで、多様なステークホルダーとの協働のなかで人文社会科学の社会的役割を具現化するための一歩として「discipline-based skills」の言語化が急務であると提言したい。
より具体的には、歴史諸分野の専門家が社会に提供できるdiscipline-based skillsとして次の「TRACEフレームワーク」を提唱する。

We historians are experts with the specialised knowledge to
Trace genealogies, temporality and transformation. As we do so, we pay attention to:
Recurrence vs. idiosyncrasy
Analytic layers & positionality
Complementarity with regard to data analysis
Ethics of interpretation.

本発表では、この暫定的フレームワークの応用と実装に向けた具体的取り組みについても報告し、「サイエンス・コミュニケーション」と比肩すべき人文知のコミュニケーションと応用方法について、学際的視点から議論を深めたい。